英国の児童精神科医ローナ・ウイングは自閉症スペクトラム(ASD)を社会性、社会的コミュニケーション、社会的イマジネーション、
それぞれに質的な偏りがみられる、「3つ組の障害」と定義しました。
また、感覚の敏感さ/鈍感さなどの感覚の偏りや、その他の精神症状も併せ持ちやすいとされています。
以下に、三つ組と感覚の偏りについて、解説します。
同年代の他者と相互的な交流を行うことが困難なことが基本的な特性です。
幼児期には他者の存在への無関心、人より物への興味の強さで表現されることが多いです。学童期以降には親密で対等の関係を友人と構築することの困難さが特徴です。
ただし、ASDの人たちの社会性は発達しないわけではなく、ゆっくりと発達し、変化していきます。知的に高い人たちは、これまでの経験をもとに自分で特性が目立たないようにカバーしている人も少なくありません。
コミュニケーションには、表出(話すことや表情・仕草などで表現する)と理解(聞くことや相手の表情や仕草をみる)があります。対人場面におけるコミュニケーションは、そうした表出と理解の両方が円滑かつスピーディに行えることで成立します。
ASDの人のコミュニケーション障害はコミュニケーションの発達が遅れが本質ではなく、社会的場面でのコミュニケーションの方法が独特であるのが特徴です。例えば一見流暢に話し、専門用語や四文字熟語などを多用する人でも、意味を十分に理解せずに使用していることがあります。音程や抑揚、早さ、リズムに偏りがあり話し方が単調であったり、リズムが不自然だったり、自分の好みのことを一方的に話し続けることや相手の言葉をそのまま繰り返してしまうといったこともコミュニケーションの方法の偏りです。
また、言葉を字義通りに受け取ってしまう、言葉の裏を読むことが苦手、相手の発した言葉の中で自分の気になった部分のみに着目してしまうといった偏りがあります。
ものを並べる、特定の物を集める、変化を嫌う(同じ行動を繰り返す)などの“こだわり”と言われる行動は、イマジネーションの障害が背景にあります。次に起こることを想像することが難しく、自分なりに見通しを持つことが出来ないため、同じパターンを繰り返し行うことで安心しやすいと言われています。また、自分の好みの物を集めることや揃えることを好んだり、せっかく集めても、それを本来の目的ではなく、たた蒐集することだけで満足することもあります。
目に見えない物(イメージ)の共有は苦手なことが多い一方で、そこに具体的な実物、写真、絵、文字などの情報が見える形であると、イメージを他者と共有しやすくなるのが特徴です。
感覚刺激への反応に偏りがあることが多く、聴覚、視覚、味覚、臭覚、触覚、痛覚、体内感覚などすべての感覚領域で鈍感さや敏感さが生じます。
聴覚:ある音には敏感に反応するが、別の音には鈍感であるなど、音源の種類によっても反応が異なることが多いです。工事現場や花火の音、車の走る
音に対し苦痛を感じ耳をふさぐ子どもが大声で話しかけられても全く気がつかないということもあります。
視覚:手をかざしたり、横目をしてみたり、特定の視覚刺激を恐れるなど、視覚的な刺激に対する独特の感じ方があります。ミニカーを走らせて楽しむ
よりも、タイヤの回る部分に注目して見ることに熱中し、横目で物を見る感覚刺激を求めるなどの行動がみられることが多々あります。隙間から
ものを見ることを好む人もいます。
味覚:味、温度、固い食べ物、舌触りなどに過敏であったり、逆に鈍感だったりします。
臭覚:香水、消毒の臭い、体臭など特定の臭いを極端に嫌がったり、逆に人や物の臭いを頻繁に嗅ごうとすることもあります。
触覚:人から触られることを嫌がったり、軽く触られただけでも叩かれたように感じ、怒り出す人もいます。特定の感覚刺激を好む場合もあり、自分で
頭を叩くなどの自己刺激行動を起こすこともあります。
温冷感覚:暑さ寒さに鈍感で低温火傷になったり、少し暑いとクーラーをつけることに固執することがあります。
これらの感覚の特異性については、ストレスが高まったときにより強く出ることもあります。わがままと受け取られがちですが、感覚情報処理の偏りとみなして対処する必要があります。
よく、この質問を受けます。DSMというアメリカ精神医学会の診断基準が2013年にIV-TR(第四版)から5(第五版)に改訂されて、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)という分類はなくなり、従来の自閉症(自閉性障害)も含めて自閉スペクトラム症に統一されました。
ただ、この定義はアメリカ精神医学会の診断基準であり、アメリカ以外の国の対応はさまざまです。英国では現在も多くの機関でアスペルガー症候群という診断名も使われます。私自身もアスペルガー症候群という診断名を現在も用いることがあります。
なお、厚労省が採用しているICDというWHOが規定している診断基準では、現在ICD-10 (第10版)ですが、ICD-10ではアスペルガー症候群という用語が使われてます。
(内山登紀夫 よこはま発達相談室、よこはま発達クリニック、大正大学)
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